samurai2-0

いぶし瓦に魅せられたSAMURAI 〜第一回:渡邉知寿 氏〜


2014年05月23日

瓦葺き職人:渡邉知寿「瓦の汚れが許せないんですよね」

渡邉知寿柔らかい笑顔を浮かべながらそう語るのは、各県を代表する瓦葺き職人が集い、腕前を競い合う「かわらぶき技能グランプリ2013」優勝の渡邉知寿(わたなべともひさ)さん。
前年度のチャンピオンというプレッシャーを跳ねのけ、見事2年連続の日本一に輝いた。そして「全国瓦工事業連盟」と「中央職業能力開発協会」それぞれが主催するグランプリを2大会とも制覇したのは渡邉さんただひとりだけ。

この両大会の差は、出場する選手の年代や地域やグループが違うと言われていて、これはテニスやゴルフで言うと「グランドスラム」、ボクシングで言うと「統一チャンピオン」に当たる前人未到の快挙。
2013年の大会では他の出場者が制限時間のギリギリまで作業を行う中、終了30分前には全行程を完了させ、そこからはこだわりの「瓦磨き」で手垢や汗染みまで落とした。

他を圧倒する作業スピードや緻密さが高い評価を受けた。いぶし瓦への想いは強く、初詣は毎年わざわざ東京浅草の「浅草寺」まで出向いていた。きっかけはたまたまとの事ですが、元々社寺仏閣を観るのが好きだったこともあり、たまたまも縁と捉え、験担ぎの為に毎年、足を運んでいた。
しかしながら「金属屋根」に葺き替えられてからは、縁起でもないと地元の「鑁阿寺」に行くようにしたという。

社寺仏閣


趣味はホームセンターで道具を物色

「僕の趣味は、ホームセンターで様々な道具を眺めては新しい使い方を模索する事です。それを実際に使ってうまくいくとモチベーションが上がるんですよね」と言う。
例えば、「クランプ」、「万力」は施工時の均一さを取る為に使用する水糸を効果的に固定するのに使用したり、「洗濯ばさみ」、「ふとんばさみ」も大小いくつも持っている。屋根のお掃除グッズとしては、トイレ掃除で有名な「サ○ポール」を3倍に薄めると南蛮(瓦施工時に使う土)汚れが良い具合に落ちるとか、汗染み雨染みには消しゴムと垢擦りが良いなど、主婦も真っ青、最早お掃除研究家の域ですね。
そして根本的に屋根を汚さないように、屋根は土足厳禁。足袋ごとスリッパを履いて、屋根に上がる時にスリッパを脱いでいる。そんな生粋の職人気質は父方の叔父の影響が強い。
道具写真
「屋根工事店を営んでいた叔父の会社で16歳から高校に通いながらアルバイトを始めた。叔父は屋根職人の国家資格である『かわらぶき技能士』の資格取得の際の栃木県での試験において、2級1級共に1位の成績で通過した腕利きの職人さん。
会社の先輩屋根職人と一緒に見習いとして働くうちに、先輩に怒られるは貶されるはヒドい想いもした。けれども負けず嫌いの為か一生懸命努力したおかげで、少しずつ褒められるようにもなり、次第に瓦工事に魅せられ、いつのまにか月に10日はアルバイトをするようになってましたね。
高校卒業後には正社員として叔父の会社に就職し叔父を親方として修行を重ねました。」


親方はとにかく厳しかったと言う
ギャラリー写真
「初めて一人で任された数寄屋造りの家、和型のいぶし瓦の工事。和瓦の葺き始め、工事の肝にもあたる『左袖』を半日掛りで丁寧に納めて、ちょっとした満足感で食事休憩を取っていました。
しかし昼食を終え屋根に登ってみると納め終わった所が全て剥がされていた!視線を上げると屋根の棟部(天辺部分)に仁王立ちする親方の姿、、、そしてただ、「もう1回」と言われました。もう一度納め直したものの、今度は「やめろ」の一言で簡単な工事の部分に回され、悔しくて誰にも気付かれないように涙を流しながら作業をしてました。」

しかしここから持ち前の負けず嫌いに火が付いて叔父と同じ経歴を狙う。まずは栃木県の2級技能士試験で1位通過。そして5年前に1級技能士試験も1位通過。それをひとつの目処として独立した。
ギャラリー写真
「2010年の技能グランプリで栃木の先輩が優勝したのを間近にし、いつか自分もというタイミングで前回大会2012年の栃木県推薦を受けました。」

持ち前の美意識と圧倒的なスピードが評価されて、出場した前回大会で見事に優勝する。
「この時に親方である叔父から電話で「ともやん、おめでとう」と初めて褒められたのが、今までの職人人生で一番嬉しかったですね。」

とより一層明るい笑顔で答えた。
「この時には来年はゆっくり観戦しようと思っていたんですが、また持ち前の『負けず嫌い』が災い(?)して、誰も成し遂げた事の無いグランドスラムを狙ってみようと思いました。」


一度始めると徹底的にこだわる性格

ギャラリー写真「仕事が終わってから毎日、練習場に通っては鏨(たがね)で瓦を削る感覚に磨きをかけました。休みも最小限にして、日曜日も練習に明け暮れました。
正直、何で毎日練習してるんだろうと、練習場に足を向けるのを躊躇ったこともありましたね。でも、応援してサポートしてくれる家族や、栃木の先輩や仲間の支えがあったのでまた頑張ろうと気合いを入れ直しました。
特に練習した後に、ひとりで解体するのはとても大変なんですが、地元の先輩や仲間が夜にも係らず、解体を手伝って頂いて本当に助かりましたね。」と周りの人たちに感謝の意を述べた。

これも偏に、日頃から先輩を立てたり、手伝ったり、後輩に技術指導を惜しみなくしていて、謙虚で実直な人柄故でしょう。

瓦葺き職人をしていて一番楽しいと思う瞬間は?
「棟取り(違う方角に向いている屋根と屋根との山折の接合部の工事)をしている時ですね。一文字(軒先の瓦の納め)や合端(瓦を微妙に削って角度を合わせたり見た目や大きさを揃えること)や平葺き(単純に平らな部分を工事すること)は究極みな同じになってしまう。
それらに比べると棟取りは解釈によって納める寸法や角度も違うし、工事する時の糸の張り方も人によって違うので、初めて個性が出せるし、そこのこだわりを観てもらいたいですね。」


渡邉さんにとって瓦葺きとは?

「人生としか言えないですね。というのも高校生の時に生活体験を文章にするという課題で書いた作文のタイトルがなんと「かわらぶき人生」ですからね(笑)我ながらハードル上げ過ぎですよね?!
しかも栃木県のコンテストでその作文が2位になってケーブルテレビの取材まで来ちゃいましたからね!!でも自分としては極端な表現ではないと思います。何しろ人間の三大欲求って言われてますけど、僕の場合は四大欲求なんですよね。瓦葺きしないとどうも落ち着かないというか、、、」


そうなると目指すは日本最速最美の瓦葺き職人ですね?

「いやぁ〜まだまだこれからですよ。もう出場できる大会は無くなってしまったけど、競技会はあくまでも競技。通過点でありスタートライン。これからは、自分を支えてくれた家族や先輩や仲間に報いる為にも、自分のお客様や文化財や社寺などを中心に実際の現場でより一層修行に励みます。」

大屋根の工事が終わった文化財の屋根の上で柔らかな笑顔で答えてくれました。

屋根の上

 

渡邉 知寿(わたなべ ともひさ)渡邉知寿
1980/07/23 生まれ

【表彰受賞】
第27回技能グランプリ2013 国土交通大臣賞(優勝)
全瓦連技能グランプリ2012 国土交通大臣賞(優勝)

【所属団体/組合/活動】
栃木県瓦工事業組合連合会 青年部県南支部長
瓦2会

【施行実績】
岡部記念館金鈴荘(文化財)
天理教大教会日本橋