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いぶし瓦に魅せられたSAMURAI 〜第二回:道上大輔 氏〜


2014年05月27日

瓦師:道上 大輔「大地(つち)の前ではみな平等

samurai_2-1作業着でいるとで田舎のお兄ちゃんといった感じのある道上大輔(みちかみだいすけ)さん。いぶし瓦生産量日本一の淡路島で1日に4000枚もの瓦を1枚1枚、手に取っては積み重ねを繰り返す、大地の恩恵という有難い重みと現実的な重みと格闘しながら、日々工房で瓦の製造に励んでいる。

「いぶし瓦を押し売りしたり、瓦、瓦、言う気は全然無いんです。」
話している内容は熱く重みがあるが、抵抗感無くすんなりと耳に入ってくるのは、声質や淡路弁独特の京阪式アクセントによるのか、ほんわかと親しみ易い。

「素材の機能として他の素材よりいぶし瓦が優位になるのであれば使って欲しいし、瓦が劣るのであれば無理に使う必要はないと思いますね。でも日本人としていぶし瓦を忘れて欲しくない。
ですから屋根材としてだけでなく、その素材の可能性を広く引き出して、いろんなジャンルで使って欲しいとも思います。」

大きな地震の度に瓦の風当たりが強くなり、消費者の瓦離れが進み、淡路島の瓦メーカーの数も減少するばかり。瓦の質量としての重さにばかり目を向けられ、瓦本来の大地の恩恵という重みについて声を大にして語る人は少なくなってしまった。


そんな屋根材の本来の機能として最も重要なのは防水機能です。

和型という伝統的な波型形状のいぶし瓦は、一枚一枚の谷部に雨水を集めて水量を多くすることで、軒先の方へできるだけ早く流すために考えられた形です。まさに機能美であり、今日まで瓦が伝えられ続けてきた最大の理由でもあります。そして忘れてはならないのが、瓦は大地から生まれ、いつか朽ち果てても大地に還る自然素材だということが最大の機能と言えるでしょう。

その他の断熱性、通気性、調湿機能、耐久性、防火性能に関しては形状や素材や製造工程の結果として、もともと備わっているものなので、あえて言うまでもない当たり前の機能です。

「僕は1400年前とさほど変わらずに今尚残り続けている結果として、いぶし瓦の価値を共有したいだけなんで、瓦は重いとか、高いとか言う話は全然興味ないんですよね。」
「ただ、日本のランドスケープにおける屋根としてはいぶし瓦の屋根がふさわしいと思っています。」

屋根写真

いぶし瓦や景観への熱い想いに既成概念やつまらない枠はない。
大自然が残る御食国(みけつくに)淡路、海沿いの瓦の町『津井』に生まれたのも現在の思想に大きく影響している。
「大学卒業後、損保会社に5年勤務して、神戸・大阪等の都会に居たけど、景観が淡路島とは違いすぎる。生粋の淡路人である僕からすると、悪い事ではないと思いますが、景観に秩序や尊厳が無いんですよね。

ハッキリ言うと『きったないんですわ』」


都会でも雪が降った後だけは景観が唯一整うと言う。

「仕事や産業の結果として、もしくは生活の一部として残ったものが原風景として思い出されるべき。
ですから僕の原風景は『いぶし瓦の屋根の民家に農村/漁村風景』ですが、『都会のビル街』が個人の原風景である事もあってしかるべき。

でも原風景は本来、物理的にも精神的にも誰にとっても美しくあるべきであり、その意味で色彩も素材も何もかもが雑多すぎる都会の景観に、唯一雪が積もった時に、ある意味で色彩も質感も素材感も初めて秩序が整う。

雪景色

俯瞰するとその景観を美しいと思わない人は、おそらく少ないはずです。そしてその秩序は、忘れかけている潜在的に眠る美意識を刺激するとも思います。これはまさしく『うわべ』だけの捉え方ですけど、ただその美しさに気付いた人でさえ、素材の本来の意義を認識してるのかしてないのかが、どうしても気になってしまうんですよね。

例えば、『古びる』という言葉ありますよね?!鉄なら錆びる、いぶし瓦なら色褪せる、それを良い事と考えればよく分からない街並みは存在しないはずだし、ましてや僕からすると『古美る』って書くべきだと思いますけどね。」


現在、心掛けている事は何ですか?

ギャラリー写真「伝統を受け継ぐものにとって重要な『守破離(しゅはり)』。(守破離とは、まずは言われたことの型を「守」るところから修行が始まる。その後、その型を自分や他者と照らし合わせて研究し、より自分に合った型をつくることにより既存の型を「破」る。

最終的に、師匠の型、そして自分自身が造り出した型の上に到達したとき、自分自身と技についてよく理解しているため、型から自由になり、型から「離」れて自在になることができるという、日本の伝統文化が発展/進化するのに役立ったとされる思想のこと。)

この業界に入ってから10年以上経っていますので、今は他流を研究し、技を取り入れる『破』に当たる時期。そういう意味では、色々な試みを通じてただ瓦というモノを作るのではなく、消費者が実際に体験できる『コト』を作る活動もしています。

例えば、お施主様が家を建てる時に実際に使う瓦を焼く瞬間に立ち会っていただく『火入れ式』をしたり、淡路の豊かな土に触れる『瓦コースター作り』を空間すべてが土に包まれたGALLERY土坐にて体験して頂いたりしています。」


今後のご自身の目標は何ですか?

「そういった『コト』を通じて、自分か誰か意志を継いでくれる人によって、もう一度日本の景観に、フランスやイタリアのような、秩序や尊厳を取り戻す事ができればと思っています。

あの辺りの国(景観)は背伸びを強いる経済成長を後回しにし、成熟を目指し『芸術、ファッション、デザイン』など文化的な成熟を目指し、それを500年実践してきた結果、今がありますからね。

残念ながら今の日本にそのくらいのスケールで考えている人はごく僅かしかいないと思います。そういう意味ではその同志を集めるというのが今の目標かもしれないですね。」


道上さんにとって「いぶし瓦」とは?

「原動力ですね。何と言うか、、、いぶし瓦の「色気」に魅せられてしまいまして。
格好いいけど、出しゃばらない、光輝くけれども決して眩し過ぎない、そんないぶし銀なところに惹かれるし、人間としての自分もいぶし瓦のようないぶし銀な色気のある人間になりたいというか、そういう意味では目標ですね。」


それでは「瓦作り」とは?

「命を賭けて1400年続く瓦の文化を守って継承するわけですからね。瓦を1枚1枚積み重ねて焼くように、一歩一歩地道に歩を進めて文化を取り戻す、そうなると人生と一緒ですね。」

自然素材であり、伝統的・文化的な価値のあるいぶし瓦への想いが尽きる事は無さそうだ。
(地層写真を撮影させて頂いた瓦粘土採掘をしている慶野配合所さんを取材した様子はブログでご覧頂けます。)
(道上さんの同志は以外と身近に居たようで、、、今回偶然、山田脩二さんにお会いする事ができました。)

瓦作り

 

道上 大輔(みちかみ だいすけ)道神
1973/12/07 生まれ

【表彰受賞】
グッドデザインひょうご2008(日常生活部門)
感性価値創造ミュージアム2009 撰定
関西デザイン撰2010 撰定
グッドデザインひょうご2011(産業ビジネス部門)
NHK、ABCテレビ、その他メディアへの出演・掲載多数

【所属団体/組合/活動】
淡路瓦工業組合
淡路瓦400年祭実行委員会代表
南あわじ市活性化委員

【施行実績】
有名無名を問わず、ただただ寡黙に、それでいて晴れやかに日本景に美と秩序をもたらす、一軒一軒のいぶし瓦屋根多数